にほひ
僕は生まれつき鼻がいいと自負している。
最近は少し衰えてきている感じがするが、それでも鼻が利く方だと思う。
色んなものに匂い、香りがあって、気持ちを落ち着かしたり、また逆にいらいらさせたり。
僕が好きなのは記憶を呼び戻す香り、匂いだ。
その匂いがするとかすかに記憶の扉が開くような気がする。
はっきりとは思い出せないが懐かしい郷愁にも似た、初恋の淡き思い出のようなものが
蘇るような気がするのだ。
子供の自転車が小さくなったので自転車屋さんに行った。入るまでは何も感じてはいなかった。
入った瞬間、鼻に飛び込んできた匂い。
自転車のタイヤと油の匂いなんだろう、僕の記憶に強烈に呼びかけてきた。
僕の母方の祖父は自転車屋だった。
田舎町なので自転車はもちろんバイク、簡単な車の修理もしていた。
今は祖父も祖母も亡くなり店は閉店している。
祖父のお店に最後に行ったのは中学生の頃、30年程前のことだ。
記憶が蘇る。
グラインダーの音。
ガソリンの匂い。
軍手。
自転車のベルの音。
赤い公衆電話。
ラジオから聞こえる高校野球中継。
そしてヘビースモーカーだった祖父の好きなタバコ ルナ。
お店の中になんだか祖父がいて、自転車を修理しているような気がして。
なんだか涙が出そうになって。
こんなにもはっきりと思い出したのは久しぶりだったので戸惑ってしまったけど
嬉しい、いい匂いだった。
思い出を紡ぎにまた自転車屋に行こうと思う。
蛇足ながら僕は季節の匂いがわかります。
昨日あたりから夏の匂いがしています。
もうすぐ夏ですね。

